8/4

夏の夜、胃痛のような蒸し暑い雨が降る。

電車はもう来ない。線路に傘を差した霊。私はやはり嗤われている。なのに。

 

殺してください。なんの希望もなく。

7/29

交叉点にイチジクが咲いている。アスファルトカリカリのチーズのように苦味を増してきているのだ。自動車は今頃氷の浮かんだ海に、一緒に浮かんでいるのだと思う。イチジクの葉が粘り気を持って歩いてくる。子供用のプールに水を張る。交叉点は浅瀬に落ちる。

 

7/22

窓から首を出して外を見ると、ぼくの大切なメモが黄土色の培養液に浸っていた。わたしは手を伸ばさない、赤ちゃんが泣いている。ストローをくわえて息を吐くと、わたしのほっぺがブクブク音を立てた。

こうしているのも数秒。スプーンでかき混ぜたら、溶けて匂いも残らない。傷口から血が出てしまった。わたしが教えたばかりの、眠り方だというのに。

水面に出れば息もできて、沈むのか落ちているのかな。

7/18

正気とは思えない。銅製の教会を言葉の角で見掛けたなんて。ぞっとするいたずらだと思う。対してわたしも公開されるはずの飲み口を、緯と経にリストカットしようと一概には考えない。お互い様かもしれない。

模造紙はよく午前3時をからかって雑に「げんちゃらさん」と言うが、あれは一体何なのだろう。息をしても先が見えないのは、多分風上に強い虎が眠っているからとか何とか。

少しだけ休ませて、と祈るのは猫の七福神だ。

7/18

大きな時間が遠ざかったようだ。わたしは頭上に交通渋滞を寝かせていた。一番始めに止まったあなたを綺麗に切り取っていた。想定していたより少しだけ装い、短く整えて、行き詰まってしまった姿をゴミに出した。あなたはどう思うだろうか?  返信が来ない。わたしはまた記憶を閉じる。

7/15

病院の中央玄関は待合所になっていた。生後三ヶ月ほどの小さな機関と、6才くらいの構成要素スカートが遊んでいた。そこへ津波が来た。わたしは小さな機関をリュックへ入れて、構成要素スカートを抱えて走った。病院は誰を避難させるかでパニックだった。上へ上へ。何から逃げるでもなく。ここでわたしは書くのをやめる。しっかりチャックを閉めたリュックの中には小さな機関はないし、腕の中には構成要素スカートも存在しない。どこへ行ったのだろう?  帰ってこない。

7/10

階段が途中でなくなっていた。階下にまで光は射し込まない。ぼくたちはその一段一段に座り込んで昼夜を共にしていた。

豆のスープが朝と晩に配給される。お湯のなかに豆が数粒入ったものだが、温かさは生きる喜びだった。ここでは多くのことができないけれど、同時に多くのことをしなくて済む。ぼくたちは本来、最低限の衣食住と友人があれば、暇をしのげるようにできているはずだった。

「……短い……弾痕が……庭を……焼いたけれども庭は黙ったままだった」

「『黙ったままだった』は変だな。『焼いたけれども庭は焼かれていない』はどうだ?」

「『焼かれていない』ではなく『氷が浮いていた』とかは?」

「それはちょっとな」

「俺は好きだけど」

「……『庭はコーヒーを飲んでいる』はどうだろう」

「それだ。いいな」

「俺もそれはいいと思う」

 

ぼくたちは階下を見てしまう。